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~第七話 地球総攻撃①~ バレリー広報官は美しすぎて

Author: 倉橋
last update Last Updated: 2025-07-31 21:13:52

 リモコンの正面、ベッド中央のキラーリ公主とベッドの縁のムーン・ラット・キッスの間の空間に、ひとりの女性が出現した。確かにその場所に存在するのだが、目が慣れてくればどこか違和感を感じる。その場にいるようで、その場にいない。例えて云えば、蜃気楼《しんきろう》のような存在。

 キラーリ公主とムーン・ラット・キッスのふたりは別に驚く様子はない。

 再生された立体映像であった。

 一メートル九十センチ以上の長身の女性。ゴールドのブレザー、ミニのアコーディオンスカート。ホワイトのブラウスにゴールドのネクタイ。日本の女子高校生の制服に似たファッションにゴールドのハイソックスとシューズ。

 髪型はショートカット、大きな目に大きな黒い瞳。そして大きな口が親しみを感じさせる。ニッコリ笑うと、ドキッとするほど愛らしい。よく見れば体がスリムすぎて脚も細すぎるのだけれど、女子高校生の制服を着るとそれが大きなアピールポイントとなった。

 特にゴールドのハイソックスは、白く細い脚の魅力を華麗に引き立て、誰もがいつまでも見とれてしまう。

 だが彼女は少女ではない。

 銀河系宇宙を統括する銀河連邦のバレリー広報官であった。

 銀河連邦。銀河系宇宙の約七百の惑星が参加する連合組織である。どの惑星も、銀河連邦での決定には無条件で従わなければならない。決議に違反すれば、最終的には銀河連邦軍の武力攻撃を受ける場合もあった。

 銀河連邦では、加入する惑星があまりにも多いため、銀河系宇宙をいくつかのブロックに分割し、ブロックの代表理事国を決定。代表理事国からなる銀河連邦総会で重要事項について会議が行われていた。

 セレネイ王国は、太陽系ブロックの代表理事国であった。

 バレリー広報官は48系ブロックのマスカット星出身。将来は銀河連邦事務総長との噂もある。地球の年齢に換算すれば既に三十歳を超えていた。

 だが、あえて銀河系宇宙で十代の女性に流行しているファッションを身に着け、大人の女性の厳粛さにひそむ少女の可憐さ、悪戯っぽさを演出していたのである。銀河連邦の惑星の間では販売用動画が計算不可能な「∞」(無限)の売り上げ点数を記録していた。

 自分も動画を販売しセレネイ王国の資産を増加させようと考えていたキラーリ公主にとっては、一番のライバルである。残念なのは、バレリー広報官は、キラー
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